2015年6月下旬。仕事の合間に無理やり休暇をねじ込みドイツ旅行を決めた。私がプライベートでドイツ旅行をするときは例外なくサッカー観戦が主目的となるのだが今回は残念ながらサッカーはシーズンオフ。サッカーなしのドイツ旅行は考えていなかったので旅先をどうするか悩んだが考えるのも面倒なので行き慣れたドイツにしておいた。年を重ね体力も気力も落ちてきたせいか楽な場所を選ぶようになってきたことは否定できない。
さて出発当日。無理やり仕事に区切りをつけるため少々無理をしたのがたたり疲労がたまっていた。それが原因かはわからないが出発の2日前からひどく下痢をして出発当日も回復はしていなかった。旅先によってはトイレを心配しながらの旅行はつらいものだが、その点ドイツは安心である。

体調不良の不安を抱えつつもルフトハンザ航空で成田空港を出発した。私の座席は最後部に近い座席の通路側。幸いなことにほぼ満席にもかかわらず隣に席に客はいなかった。早朝に出発してきたため何も食べていなかった私は腹の具合が良くないことを自覚しつつも空腹には逆らえず食事をほとんど食べてしまった。その報いはすぐにやってきた。軽い腹痛を感じるようになったのだ。さらに悪いことは重なり機体が小刻みに揺れ続けている。やがてそれが私の乗り物酔いにつながる。
やがて私はトイレに籠り嘔吐と下痢を繰り返した。しばらくすると腹痛はおさまったのだが乗り物酔いはなかなか良くならない。時計を見るとまだフランクフルト到着までは8時間以上ある。「おいおい勘弁してくれよ。なにのんびり飛行しているんだよ。」私は心の中で全くおかしなことを叫んでいたのだが、乗り物酔いをする人にはこの情けない気持ちが少しは理解していただけるかもしれない。
それでも、私の過去の経験と比較すれば今回の乗り物酔いの苦しさは大したものではなかった。乗り物が苦手にもかかわらず乗り物で出かけるのが好きな私は普通の人よりも乗り物酔いの経験は豊富だと思う。経験談を1時間は語れると思うが、この手の話は面白くない上に聞き手を不快にさせてしまうので滅多に話さない。
長く辛いフライトをなんとか乗り切りフランクフルト空港に到着した。この日はフランクフルトではなく列車で3時間ほど移動したハノーファーに宿を予約してある。よりによってこういう体調の時に空港から離れたホテルを予約してしまったことを後悔したが仕方がない。少しくらいは我慢できるし列車なら座席さえ確保できれば酔うことはないだろう。
フランクフルト空港からはドレスデン行のIC(インターシティという種別の急行列車)でフルダまで行きベルリン行のICに乗り換えればさほど時間はかからない。乗り換えも問題なく行い座席も確保しあとはハノーファーへ到着するのを待つだけと思っていたが、ハノーファーまであと10分ほどのところで列車が突然停車した。車内アナウンスによるとハノーファー駅で信号機が故障したために停車しており30分くらい遅れるとのことだった。車窓からは沼地が点在しているのが見えるが、この風景から判断するとハノーファーは本当にもうすぐのところまで来ているはずだ。

なお、翌日の地元のニュースで知ったのだが、故障した信号機というのはハノーファー駅の信号だったようだ。信号機故障の発生地点、発生時刻を考えると私は本当に運がなかったのである。
ヒルデスハイムから乗った列車がハノーファーに到着した時にはすっかり日が暮れていた。ハノーファーの駅に降り立つのは初めてドイツを訪問した時以来なので久しぶりなのだが、そんな感慨にふける余裕はない。ホテルへ急ぐことにする。予約していたファーレンヴァルダーホテルは駅からUバーンで10分ほど行ったビュットナーシュトラーセという停留所のすぐ前にあった。ホテルを見つけたときすでに全身の力が抜けていくような気がした。ホテルのフロントでチェックインをすませたが、このホテルは客室が別棟にあり、そこへはすでに暗くなった駐車場を通り抜けていかなくてはならない。ただそれだけのことだがその時の私にはかなり苦痛に感じられた。なんとか部屋に着くともう荷物も広げず上着を脱いだだけでシャワーも浴びずにベッドに横になった。本当に幸先の悪いスタートだった。
2015年6月21日
終わり